こちらは、マルクスの資本論を経済学者でマルクス研究家の斎藤幸平さんが解説した一冊です。
何やら書き込まれているマジック書きは決してマルクスのサインではありません。
気を付けていたのにとうとう我が家のまるくちゅ君にやられてしまいました。
一読して今二回目を読んでいるところなのですが、自分の気づきをまとめるためにアウトプットしてみようと思います。
私はことある毎に、不登校は個々のご家庭の問題ではなく、社会の構造が生み出す問題であると言ってきました。
理由は至極簡単です。
もし個々のご家庭の問題であるならば、なぜ同時多発的に日本国内で十数万人の子どもたちが学校に行くことを拒否するのでしょうか?
十数万人子どもの親御さんが一斉に育て方を間違えたからでしょうか?
そんなはずはありません。
だから不登校とは、個々のご家庭の問題ではなく社会の構造が生み出す問題なのです。
それではここで言う社会の構造とは何でしょうか?
私は環境問題を解決したいと思い大学と院で環境問題の研究をしてきました。
そして今、紆余曲折を経て不登校という社会問題に微力ながら取り組んでおります。
取り組んでみて分かったことは、環境問題も不登校も根は同じだということです。
環境問題と不登校に共通する「根」とは、何でしょうか?
私は資本主義であると考えます。
資本主義とは、お金からモノやサービスを生み出し、そのモノやサービスを売買することで、元手のお金を増やしていく、無限に続く価値増殖ゲームです。
地球が蔵する資源が仮に無限大であったとするならば、この価値増殖ゲームはこれから先も永久に続いてくことでしょう。
しかし、この地球上に存在するものは、石油も金もダイヤもレアメタルも人の命も、一見無限に見える水や空気でさえ、ありとあらゆるものが有限です。
無限に続く価値増殖ゲームをありとあらゆるものが有限である球体の上で展開する、この根源的な矛盾がいたるところに軋みとして現れています。
その軋みとは、森林破壊や大気汚染のような環境破壊であり、うつや依存症や過労死などのメンタルの問題であり、高齢者や子どもの虐待であり、コミュニティの崩壊であり、途上国の児童労働であり、戦争であり、テロリズムであり、ウイルス禍です。
そして私は不登校もその軋みの一つであると考えています。
魚が水の中で泳いでいることに無自覚であるように、私達は皆どのような価値観を血肉化して日々生活しているかに対して無自覚です。
現代の日本に生きる私たちは、「成長」という言葉に何の疑問も挟まず、良きものという判断を下す傾向にありますが、それは果たして本当でしょうか?
「成長」を無批判に是とできたのは、地球は無限に広いという無邪気な前提条件を私たちが信じていられたからです。
確かに地球はかつて無限に広かったかもしれませんが、人口が77億にまで膨れ上がった今、その前提条件はもうすでに破綻しています。
前述の通り、私達は成長を良きものとする価値観を深く内面化して生きていて、しかもそのことに対して無自覚です。
その価値観はどこに由来するかと言えば、無限の価値増殖を志向する資本主義という金儲けゲームです。
私達は、この価値増殖ゲームに好むと好まざるに関わらず巻き込まれていて、その価値観があまりに内面深く食い込んでいるが故に、それ以外の価値観があることさえ忘れてしまっているのではないでしょうか?
資本主義が蔓延する以前の社会は定常経済でした。成長など志向していませんでした。
本書の中でも紹介されていますが、世界のGDPは18世紀半ばまではほぼ横ばいで推移していたのです。
それが産業革命以降急激に上昇し、GDPの推移を表すグラフの傾きは今やほぼ無限大になっています。
ほぼ定常であった経済活動が産業革命以降急激に拡大し、有限な地球の上で、無限増殖を志向する金儲けゲームが展開されている。
この矛盾が先ほど列挙したような様々な問題を引き起こしています。
その矛盾に抗うためにまず必要なこと。
それは、今私たちが無自覚に取り込まれているゲームがどのようなルールで運用され、どのような矛盾を孕んでいるかに自覚的になることです。
自分がどのようなゲームに知らない間に参加させられていて、それによって何を失ってきたかが分かれば、その無理筋のゲームから一定程度距離を取ることが出来るはずです。
マルクスは、資本主義が社会が蔵するあらゆる富を、お金で買わなければ手に入れられない商品に変えてしまうことを、
分業によって労働者を無力化し労働の内容から疎外してしまうことを、
コミュニティが崩壊し人間が何ともつながりを持たない砂粒と化してしまうことを、今から150年も前に予見していました。
本書を読んでいてその先見性に驚くばかりです。
有限な世界で展開される無限増殖ゲームから距離を置くためには、まずそのゲームの仕組みを知ることです。
無限増殖ゲームに世界が食い破られてしまう前に、別の生き方を探し出さなければいけない。
その第一歩として本書はぜひ手に取って頂きたい一冊です。